感ぜずと強く言ひきりてそれは嘘なり弱きダダイスト
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神よこの一人の無神論者を救ひ見よとたんかきりしが多少淋しし
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あらん限りの手段《てだて》もて妻を虐《しひた》げる之を称して倦怠期といふ
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脱走の男の如く土埃たてて街ゆく自動自転車《おーとばい》かな
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函館の修道院が焼しといふ新聞を見て嬉しくなりぬ
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金のなきこの生活がさ程にも不思議にあらず不平をいふな
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黴菌の如く子が殖へるごとしそそくさと袴をつけて外出をする
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妻と子が家畜の如く見ゆるなりつつましく朝の味噌汁を吸ふ
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酒飲めば酒に溺れる男なり教会の門に小便をする
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小つぽけな墓を立ててやらんと思へり子が死ねば夫婦別れの約束をする
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野菜畑の野菜の中にただずみて野菜になればよしと思へり
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赤十字の白きベッドに血を吐きし友を見舞へるが友はほほゑまず
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大いなる赤き球の如き月夜なり叛乱の旗のごとくのぼりて
短冊の歌
うつくしや美瑛の菓子屋の店先のコンペートの赤青の色
(姉の枕元に掛けてあった短冊の歌)
第二回旭川歌話会詠草
草丘は雪に掩はれこの朝はまつたく冬となりにけるかな
第四回旭川歌話会詠草
裏道の石の壁をばよぎりたり入日はあかるく足もとを照らす
第五回旭川歌話会即詠
早春(上)
み冬つきて春べとなりぬ庭松の囲ひの癖も眼にわづらはし
第六回旭川歌話会記
庭さきに馬をひきだし毛を揃へ馬耕の用意するか農夫等
第九回旭川歌話会詠草
牧小屋の真上の空はくもりぞら白雲疾くかげをさをめり
第十回旭川歌話会詠草
わが屋戸の壁にのびたる花豆のかげりにあれば色あせてけり
怪鳥
――層雲峡温泉に遊びて――
峡添《かいそへ》に路をひらくと男等はしげりにこもり高き声たつ
崖下をとをりて仰ぐ眼に紅葉深山《みやま》をいでゝ峡はあかるし
昼ながらま近く来鳴く怪鳥の羽音にしんといやしづむ山
樹をうちて羽音も荒き怪鳥のすがたをみむと息を凝らしつ
湯煙を顔にうけつゝ真青《まさを》なるつぼの湛《たゞ》へにかゞまりゐるも
たぎれども色すみ透る湯のつぼにしづむ土鼠《もぐら》のその白き足
山路に這ひもあがるとトカゲの尾きらゝと石に青光るなり
あたらしき樋《とひ》をふせつゝ湯けむりをあびる男の打つ杭の音
手拭を
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