き壺などかなしめるかな
科《とが》もなき妹《いも》をしかりしそののちのさびしきこころ夕雲をみる
この弱きをとこの血潮吸はむとし夜蚊はせまりぬ眉の間に
去《い》ねといひ去《い》なぬといひてかの君と争そひしこともうれしきひとつ
ゆるせ君きみ魔となれと山奥に大樹たたきて呪ひたること
この花を愛すといひて白薔薇に触るれば花のちるがかなしき
疎林落陽
うらがれの林にたてばしんじつに露はつめたくおもはれしかも
うつくしく疎林《そりん》くまなく陽はてりぬここにをとこは首くくりせむ
うつうつと林にいれば蔓草《つるくさ》の首くくりせといひにけるかな
首くくれば親がなくぞとたれさがる蔦《つた》にむかひていひにけるかも
かなしかるものの化身のみえかくれひそかにわれにせまるとおもふ
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その他短歌
炉石を弄る
瘡《きず》つきし野獣の如き風鳴《かざな》りの
心細さよ
炉の石をいぢる
×
なるがままに
委《まか》してをけといふ情《なさけ》なき
心となりし二三年かな
×
そと触れてもものに
怖づてふ自《みづか》らの
かなしき性《さが》をひとりさびしむ
×
床屋より帰れば従妹
しげしげと顔をみるなり
二階にあがる
七夕
七夕の柳ひきづつて行つたばかりの路だ
河原の石白々とせきれいの尾も白い
ほとほと[*後半の「ほと」は二倍の踊り字使用]と困《こ》うじ果てたるわたしの生活
そつとして置け女、恋ごころ、こはれる
真つすぐな街
美瑛町のまつすぐな街に立つてゐる女憎らしい
入浴をそそる午後の陽にしんみり坐つてゐる
珠を拾つてみたい幅広い夜の街
いつぴきのけもの街を馳けぬけた深夜のひととき
ごむ靴を穿いた子供の気持である
愛しうてならない馬が街を通つた
歩るいてゐるのが不思議でならず足をながめる
拳銃を欲しくてならない女を撃つ拳銃でないのです
[#「七夕」「真つすぐな街」は自由律俳句]
無神論者の歌へる
共産主義、無政府主義、社会主義、みなくだらなしただなんとなし舌触りよし
×
人なみに妻を娶りて子を産みてさてそのつぎのおそろしきかな
×
争ひて頬をうちしが争ひて髪をきりしが妻は妻なり
×
子の愛を
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