燈の笠を拭いてをかなかつたことから俺は再び暴力をふるつた。
――泣面を見てゐられるか、カフェに行くんだ金、をだせ。
すると彼女は、めそめそ泣ながら、押入れの上の段に泥棒犬のやうによつ這ひになつて入り込んだ。
押入の天井板は、移転して来た当時、電燈の取り付けにきた電燈屋が、天井板をはづしつ放しにして帰つたが、この暗い所に手を突込んでゐたが、そこから小さな五十銭銀貨一枚を包んだ紙包を取りだした。
まるでお伽話しではないか。
その隠し場所の思ひつきのすぐれてゐることには、俺も彼女に敬意を表した。
粉おしろいの粉の中に隠されてあつたり、無造作に紙に包んで糸巻き代用にしてゐたりしたので、彼女の留守に家中を探したことがあつたが容易に発見されなかつた。
以前にも増て殴ることに興味を覚えだした。
――しかし自重しなければならないぞ、一撃が五十銭を生むのだ。
俺は殴ることを自重した、しかし彼女の貯へは長くつゞかなかつた。其後彼女は泣くばかりで遂に立ちあがらなかつた。
底本:「新版・小熊秀雄全集第一巻」創樹社
1990(平成2)年11月15日新版第1刷発行
底本の親本:「旭川
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