6340_03.png)入る]
 実験の道具がすっかり揃ってから、ファラデーは実験室に来る。ちゃん[#「ちゃん」に傍点]と揃っているか、ちょっと見渡し、引出しから白いエプロンを出して着る。準備したものを見ながら、手をこする。机の上には入用以外の物は一品たりとも在ってはならぬ。
 実験をやりはじめると、ファラデーは非常に真面目な顔になる。実験中は、すべてが静粛[#「静粛」に傍点]でなければならぬ。
 自分の考えていた通りに実験が進行すると、時々低い声で唄を歌ったり、横に身体を動して、代わるがわる片方の足で釣合をとったりする。予期している結果を助手に話すこともある。
 用が済むと、道具は元の所に戻す[#「元の所に戻す」に傍点]。少くとも一日の仕事が済めば、必ずもとの所に戻して置く。入用のない物を持ち出して来るようなことはしない。例えば孔《あな》のあいたコルクが入用とすると、コルクとコルク錐《きり》を入れてある引出しに行って、必要の形に作り、それから錐を引出しにしまって、それをしめる。どの瓶《ビン》も栓《せん》なしには置かないし、開いたガラス瓶には必ず紙の葢《ふた》をして置く。屑《くず》も床
前へ 次へ
全194ページ中62ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
愛知 敬一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング