た。講演は物質に関するもので、論文は生石灰の分析に就いてである。いずれもそう価値のあるものではない。
 しかし、これは特筆[#「特筆」に傍点]に値いするものというて宜かろう。ささやかなる小川もやがては洋々たる大河の源であると思えば、旅行者の一顧に値いするのと同じく、ファラデーは講演者として古今に比いなき名人と謂《い》われ、また研究者としては幾世紀の科学者中ことに群を抜いた大発見をなした偉人と称《たた》えられるようになったが、そのそもそもの初めをたずねれば[#「初めをたずねれば」に傍点]、実にこの講演と研究[#「講演と研究」に傍点]とを発端とするからである。
 かくファラデー自身が研究を始めることになって見ると、デビーの為めに手伝いする[#「手伝いする」に傍点]部分と、自分自身のために研究する[#「自身のために研究する」に傍点]部分との区別がつきにくくなり、これがため後には行き違いを生じたり、妬みを受けたりした。しかし初めの間はまだ左様なこともなく、一八一八年頃デビーが再び大陸に旅行しておった留守にも、ファラデーは実験室で種々の研究をし、ウエストの新金属というたシリウムを分析して、鉄、ニ
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