り、これが磁場にていかなる変化を受くるかを調べたるも、結果は見当らなかった。この後三十五年を経て、一八九七年オランダ人のゼーマンがこの変化を研究し、今日ゼーマン効果[#「ゼーマン効果」に傍点]といわれている大発見となった。

     二三 研究の総覧

 これよりファラデーの研究の全般[#「研究の全般」に傍点]を窺《うかが》おう。それにはチンダルの書いたものがあるから、そのままを紹介する。ただファラデーの死後間もなく(今から言えば五十年前に)書かれたものだから、多少不完全な[#「不完全な」に傍点]点もあるようである。
「アルプス山の絶頂に登りて、諸山岳の重畳するを見渡せば、山はおのずから幾多の群をなし、各々の群にはそれぞれ優れた山峯あって、やや低き諸峰に囲まるるを見る。非常なる高さに聳ゆるの力あるものは、必ずや他の崇高なるものを伴う[#「伴う」に傍点]。ファラデーの発見もまたそのごとく、優秀なる発見は孤立せずして、数多の発見の群集せる中の最高点[#「最高点」に傍点]を形成せるを見る。
「すなわちファラデーの電磁気感応の大発見[#「電磁気感応の大発見」に傍点]を囲んで群集せる発見には、電流の自己感応、反磁性体の方向性、磁気指力線とその性質並びに配布、感応電流による磁場の測定、磁場にて誘導さるる現象。これらは題目において千差万別なるも、いずれも電磁気感応の範囲に属するものである。ファラデーの発見の第二の群は[#「第二の群は」に傍点]、電流の化学作用に関するもので、その最高点を占むるは、電気分解の定律[#「電気分解の定律」に傍点]なるべく、これを囲んで群集せるものは、電気化学的伝導、静電気並びに電池による電気分解、金属の接触による起電力説と電池の原因に関する説の欠点、および電池の化学説である。第三群[#「第三群」に傍点]は光の磁気[#「光の磁気」に傍点]に対する影響で、こは正にアルプス山脈のワイスホルン峰に比すべきものか。すなわち高く美しくしかも孤峰として聳ゆるもの。第四群[#「第四群」に傍点]に属するのは反磁性[#「反磁性」に傍点]の発見で、総ての物質の磁性を有することを中心として、焔《ほのお》並びにガス体の磁性、磁性と結晶体との関係、空中磁気(ただし一日並びに一年間の空中磁気の変化に関する説は完全とは言い難かるべきも)である。[#「である。」は底本では「である」]
「以上に列記したるは、ファラデーの発見中の最も著名なるもののみである。たといこれらの発見なしとするも、ファラデーの名声は後世に伝うるに足るべく、すなわちガス体の液化、摩擦電気、電気鰻の起す電気、水力による発電機、電磁気廻転、復氷、種々の化学上の発見、例えばベンジンの発見等がある。
「かつまたそれらの発見以外にも、些細の研究は数多く、なお講演者[#「講演者」に傍点]として非常に巧妙であったことも特筆するに足るだろう。
「これを綜合して考うれば、ファラデーは世界の生んだ最大の実験科学者なるべく、なお歳月の進むに従って、ファラデーの名声は減ずることなく、ますます高くなるばかりであろう。」と。
 ファラデーの名声がますます高くなるだろうと書いたチンダルの先見は的中した。しかし、チンダルはファラデーの最大の発見を一つ見落しておった[#「最大の発見を一つ見落しておった」に傍点]。それは実験上での発見ではなくて、ファラデーが学説として提出したもので、時代より非常に進歩[#「非常に進歩」に傍点]しておったものである。もしチンダルにその学説の価値が充分に理解できたならば、チンダル自身がさらに大科学者として大名を残したに違いない。それは何か。
 前にフィリップスに与えた手紙のところで述べた電気振動が光である[#「電気振動が光である」に傍点]という説である。マックスウェルの数理と、ヘルツの実験とによりて完成され、一方では理論物理学上の最も基本的な電磁気学に発展し、他方では無線電信、無線電話等、工業界の大発明へと導いた光の電磁気説[#「光の電磁気説」に傍点]がそれである。
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  年表

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一七九一年  九月二十二日 ロンドン郊外ニューイングトン・ブットに生る。
一八〇四年         リボーの店に入る。
一八一二年  二月     サー・デビーの講演を聴く。
一八一三年  三月  一日 王立協会の助手となる。
同      十月 十三日 サー・デビー夫妻に従って欧洲大陸に出立す。
一八一四年         イタリアにあり。
一八一五年  四月二十三日 ロンドンに帰る。
一八一六年  一月 十七日 始めて講演す。
一八一六年         生石灰を研究し、その結果を発表す。
一八二一年  六月 十二日 結婚す。王立協会の管理
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