間に何等かの関係あるべきことを考えた人は多かったが、みな成功しなかった。エールステッドは他の人よりも、強い電流の通れる針金を取って実験したため、この発見をしたのである。そこで電流の通れる針金を磁針に平行[#「平行」に傍点]にして、その上方に置いたり、下方に置いたり、また針金を磁針に直角[#「直角」に傍点]にして、上に置いたり、下に置いたりして、種々研究した結果、終《つい》に「電気の作用は廻わすように働く[#「廻わすように働く」に傍点]」という定律を見出した。今日より見れば、極めて不充分な言い表わし方ではあるが、とにかく、偉大な発見であった。
デビーもこの発見の記事を読んで、早速実験に取りかかり、電流の通れる針金に横に[#「横に」に傍点]鉄粉の附着することを確めた。
この時代は、ニュートンの引力説が全盛の時代であったから、電流が己《おの》れの方へ直接に[#「直接に」に傍点]働くことなく、己れと直角の方向へ働いて[#「直角の方向へ働いて」に傍点]、横に[#「横に」に傍点]磁針をまげるということは、余程奇妙に感ぜられたものと見える。
翌一八二一年は、ファラデーが結婚した年であるが、また一方においては、電磁気廻転の実験[#「電磁気廻転の実験」に傍点]に成功した年でもある。初めウォーラストンは、電流の通ずる針金のあるときは、磁極をこれに近づくれば、針金は自己の軸のまわりで廻転を始めるだろうと考えて、実験したが、成功しなかった。
その頃、ファラデーは電磁気の作用の歴史を某雑誌に出しつつあった関係上、それらの実験を繰りかえして試み、これが動機となって、次の実験に成功した。すなわち、下端を水銀の皿に入れ、上端を吊してある針金に、電流を通ずると、中央にある磁極のまわりを廻転し出すということである。また反対に電流の通ずる針金の位置を固定し置けば、磁極の方がそのまわりを廻転する。これがウォーラストンの企てた実験に外ならぬという誤解を生じたのだが、実はウォーラストンのとは全く違った実験なのである。
この実験に成功したのは九月三日のことで、この日の出来事は既に前にも記した通りである。
その十二月には、地球の磁力[#「地球の磁力」に傍点]によりて、電流の通れる針金の廻転することをも確かめ、翌年も引きつづきこの方面の研究に没頭した。
三 手帳
以前からファラデーは種々の本を読んだときに、面白いと思うた事を手帳に[#「手帳に」に傍点]書き抜いておったが、この頃からは自分の心に浮んだ考をも書き始めることにした。その中に次のようなのがある。
「磁気を電気に変えること。」
「金属の透明なること。」
「太陽の光を金箔に通すこと。」
「二つの金箔を電気の極にして、その間に光を一方から他方へ通すこと。」
これらは、後になってファラデーのやった大発見の種子とも見るべきものである。
後にこの手帳を製本させて、その表紙に書きつけたのに、
「予はこの手帳に負う処が多い。学者は誰れでもかかるものを集め置くのがよい。一年も引きつづいて、やっておれば、左まで面倒とは思わなくなるだろう。」
四 ガスの液化
一八二二年に、ファラデーは塩素ガスを液体[#「塩素ガスを液体」に傍点]にした。デビーは以前から、塩素の固体といわれているものは加水塩化物に外ならずというておった。ファラデーはその分析を始めたが、デビーに見せたら、「ガラス管に封じ込んで圧力を加えたまま、熱して見たらどうか。」と言うた。別に、どうなるだろう[#「どうなるだろう」に傍点]という意見は言わなかった。ファラデーはその通りにして熱して見たら、ガラス管の内には、液体が二つ出来た。一つは澄んで水のような物で無色である。他は油のような物であった。デビーの友人のパリスという人が丁度このとき実験室に来合せて、それを見て戯談半分に、「油のついている管を使ったからだ。」と言った。
すぐあとで[#「すぐあとで」は底本では「すぐ あとで」]ファラデーが管を擦《こす》ったら、破れて口が開いたが、油のような液は見えなくなって[#「見えなくなって」に傍点]しまった。これは前にガラス管を熱したとき、塩素のガスが出たが自己の圧力が強かったため、液化してしまい[#「液化してしまい」に傍点]、油のようになっていたのだ。ところが、今管に口が開いて圧力が減じたので、再びもとの塩素ガスに[#「もとの塩素ガスに」に傍点]なって、飛散してしまったのである。
翌朝パリスはファラデーから次の簡単明瞭な手紙を受け取った。
「貴殿が昨日油だと言われし物は、液体の塩素に相成り申候。 ファラデー」
かく、自己の圧力を使うて液体にする方法は、その後デビーが塩酸に用いて成功[#「成功」に傍点]し、ファラデーもまたその他のガス体を液化
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