するに用いて成功[#「成功」に傍点]した。
 しかし、これは随分危険な実験で、ファラデーも怪我をしたことがあり、一度はガラスの破片が十三個も眼に入ったことがある。
 これらの実験があってから、どのガス体でも、ことにその頃まで永久ガス[#「永久ガス」に傍点]といわれておったものでも、充分な圧力と冷却を加えれば、液体とも固体ともなることが判明した。
 翌一八二四年には、油に熱を加えて分解して、ベンジン[#「ベンジン」に傍点]を得た。このベンジンからアニリンが採れるので、従って今日のアニリン色素製造の大工業の基礎になった発見というてもよい。
 この年、ローヤル・ソサイテーの会員[#「会員」に傍点]になった。その次第は前に述べた。

     五 ガラスの研究

 翌年にはローヤル・ソサイテーが、ヘルシェル、ドロンド、並びにファラデーの三人に、光学器械に用うるガラス[#「光学器械に用うるガラス」に傍点]の研究を依頼した。化学の部分はファラデーが受け持ち、ドロンドは器械屋の立場から試験を行い、ヘルシェルは天文学者なので、光学の方面から調べるというつもりであった。五年間引きつづいて研究をした。
 これに聯関して起った事件は、一八二七年にファラデーの実験室に炉を造ったので、その番人に砲兵軍曹のアンデルソンという人を入れた事である。ガラスの研究が済んだ後も、引き続いてファラデーの助手[#「助手」に傍点]をつとめ、一八六六年に死ぬまでおった。良く手伝いをした人だが、その特長というべきは軍隊式の盲従であった[#「軍隊式の盲従であった」に傍点]。
 アボットの話に、次のような逸話がある。アンデルソンの仕事は炉をいつも同じ温度に保ち、かつ灰の落ちる穴の水を同じ高さに保つのであるが、夕方には仕舞って、何時も家に帰った。ところが、一度ファラデーは帰って宜しいということをすっかり忘れておった。翌朝になって、ファラデーが来て見ると、アンデルソンは一夜中[#「一夜中」に傍点]、炉に火を焚き通しにしておった。
 この年、デビーの推選で、協会の実験場長[#「実験場長」に傍点]に昇進し、従って講義の際に助手をしなくてもよくなった。
 一八二九年には、ガラスの研究の結果について、バーカー記念講義をなし、翌年に研究を終って報告[#「報告」に傍点]を出した。ローヤル・ソサイテーでは、良いガラスは出来たが、もっと大きいのを造ることを考えてくれという注文であったが、ファラデーは他の方面の仕事が急がしいからというて、断わった。それゆえ、大きいレンズを作って、望遠鏡の改良をするというような実用的の成功までには至らなかった。しかし、万事塞翁が馬で[#「塞翁が馬で」に傍点]、未来の事はちょっとも分らぬものである。ファラデーがこの際作った鉛の硼硅酸塩ガラスがある。重ガラスといわれるものであるが、このガラスの切れを使って、後にファラデーは磁気の光に対する作用[#「磁気の光に対する作用」に傍点]や、反磁性[#「反磁性」に傍点]を見つけることに成功したのである。それゆえもしこのガラスが無かったならば、この二大発見はもっと遅れた筈[#「もっと遅れた筈」に傍点]だともいえる。
 ガラスの研究をやっておった間にも、ファラデーは他の研究もした。すなわち、ナフサリンを硫酸に溶して、サルホ・ナフサリック酸を作ったり、「化学の手細工」という本を書いたりした。
 これで、ファラデーの研究の第一期は終った。この間に発表した論文は約六十で[#「六十で」に傍点]、その中六つがおもなもので、発見としては、化学の方で、ベンジンとサルホ酸。物理の方では、塩素の液化と電磁気廻転とである。

    第二期の研究

     六 磁気から電流

 ファラデーは電磁気廻転を発見してから、電流と磁気との関係について、深く想いを潜めておった。もちろん、この関係に想いをめぐらしていた者は、ただにファラデーのみでなく、他にも多くあった。その中で成功した一人はスタルゲヲンで、電磁石[#「電磁石」に傍点]の発見をした。鉄心を銅線で巻き、銅線に電流を通ずると、鉄心が磁気を帯ぶるというのである。
 かく、電流を用いて磁気を発生することが出来るからには、逆に磁気を用いて電流を起すことも出来そうなもの[#「磁気を用いて電流を起すことも出来そうなもの」に傍点]だと、ファラデーは考えた。前に述べた通り、一八二二年にも、ファラデーは手帳に、「磁気を電気に変えること」と書きつけた。一八二四年十二月[#「一八二四年十二月」に傍点]には、銅線のコイルの内に棒磁石を※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]し込んで、いろいろと実験して見たが、結果は出て来なかった[#「結果は出て来なかった」に傍点]。翌二五年十一月にも[#「翌二五
前へ 次へ
全49ページ中30ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
愛知 敬一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング