、チンダルがファラデーの所に入って来ながら、「どうも心配です。」という。ファラデーは「何にが」という。「いや、昨日来た委員連の希望を御|諾《き》きにならないのではあるまいか。それが心配で。」と返事した。ファラデーは「そんな責任の重い位置につくことを勧めてくれるな。」という。チンダルは「いや、私はもちろんお勧めもするし、またこれを御受けになるのが義務と思います。」というた。
ファラデーは物事をやす受け合いをすることの出来ない性質で、やり出せば充分にやらねば気がすまない[#「やり出せば充分にやらねば気がすまない」に傍点]し、さもなければ初めからやらないという流儀の人である。それで当時のローヤル・ソサイテーの組織等について多少満足しておらない点があった。それゆえ、会長になれば必ず一と悶着《もんちゃく》起すにきまっているので、「おいそれ」と会長にはならなかったのだ。もちろん、改革に着手するとなれば、ファラデー側の賛成者もあることは確なのである。そんな事で、チンダルは大いに勧めては見た。そのうちにファラデー夫人もはいって来た。これは夫の意見に賛成した。結局ファラデーは辞退してサー・ベンジャミン・ブロージーが会長になった。
かような理由で、ファラデーは会長にはならなかったが、今日でもローヤル・ソサイテーには委員連がファラデーに会長就任を勧めている所の油画がかけてある[#「油画がかけてある」に傍点]。ファラデーになって見れば、会長になったからというて別に名誉が加わりもしなかったろう。却《かえ》ってローヤル・ソサイテーがファラデーを会長になし得なかったことを残り惜しく思うだけである[#「なし得なかったことを残り惜しく思うだけである」に傍点]。また王立協会でも、会長のノーサムバーランド侯が死んだとき、幹事連はファラデーを会長に推選したが、この方も断った。英国科学奨励会の会長にもならなかった。
四九 研究と著書
ファラデーの研究は非常に多い。題目だけで百五十八[#「題目だけで百五十八」に傍点]で、種々の雑誌や記事に発表してある。短い物も多いが、しかし、そういうものの中にも重要なのがある。また金曜講演の要点を書き取ったような物もその中にある。しかし非常に注意して行うた実験もある。
ことに電気に関する実験的研究[#「実験的研究」に傍点]の約三十篇の論文は、その発表も二
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