しっかり[#「しっかり」に傍点]と、のみ込めない人であった。友人が新発見の話をして、その価値や、これの影響いかんというようなことを聞かされても、ファラデーは自分で実験して見たものでなければ、何とも返事が出来なかった。
多くの学者は学生や門弟を使うて研究を手伝わせる[#「手伝わせる」に傍点]が、ファラデーにはこれも出来ない。「すべての研究は自分自身でなすべきものだ」というておった。
ロバート・マレットが話したのに、十八年前にムンツの金属という撓《たわ》み易いが、ごく強い金属を硝酸第二水銀の液に漬けると、すぐ脆《もろ》い硬い物になることをファラデーに見せようと思って持って行った。ファラデーが早速この液を作ってくれたので、自分がやって見せた。ファラデーの眼前で[#「眼前で」に傍点]、しかもすぐ側で[#「すぐ側で」に傍点]、やって見せたのだから、まさか疑ったわけではあるまい。しかしファラデーは見ただけでは承知できない[#「承知できない」に傍点]と見えて、自分でまたやり出した[#「またやり出した」に傍点]。まずその金属の一片をとって、前後に曲げて見、それから液に漬け、指の間に入れて破って見た。この間ファラデーは黙ってやっておったが、漸《ようよ》う口を開いて、「そうだ、軟《やわらか》いが、なるほどすぐに脆くなる。」しばらくしてこれに附け加えて、「そう、もっと何か、こんな事は無いでしょうか。」「新しい事は、これ以外には別にない」と言うたら、ファラデーは多少失望して見えた。
ファラデーがある事実を知るのには、充分満足するまでやって見ることを必要とした。それですっかり判ると、その次にはこれを他の事実と結んで[#「結んで」に傍点]、一つにして[#「一つにして」に傍点]考えようと苦心した。実験室の引出しの内に在った覚書に、こんなのがあった。
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四段の学位
ある新事実の発見。
この新事実を既知の原理にて説明すること。
説明出来ないような新事実の発見。
その新事実をも説明し得るような一層一般的なる原理の発見。
[#ここで字下げ終わり]
[#地から3字上げ]M、F、
三七 実験に対する熱心
ファラデーの実験に対する熱心[#「熱心」に傍点]は非常なもので、電磁気廻転を発見したときに、踊って喜んだことは、前にも述べた通りである。光に対する磁気の作
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