むので、リーブも一緒に行ったが、リーブは自分の銃は自分で装填し、デビーの鉄砲にはファラデーが装填する。こんな事で、リーブとファラデーとは談話する機会を得、リーブはファラデーが下僕ではなくて、実験の助手[#「実験の助手」に傍点]であることも知ったし、またこの助手が中々偉い人間であることも知った。それでほとんどデビーに次ぐの尊敬を払いはじめた。ある日、リーブの所で正餐をデビー夫妻に饗《もてな》したことがあった。その時ファラデーをも陪席[#「陪席」に傍点]させると言い出した。しかしデビーは下僕の仕事もしているのだからというて断った。しかしリーブは再三申し出して、とにかく別室でファラデーを饗応《きょうおう》することにした。
ファラデーはリーブを徳としたのか、その交際はリーブの子の代までも続き、実に五十年の長[#「五十年の長」に傍点]きに亘《わた》った。
一八 旅行のつづき
再び旅行の事に戻ろう。デビーはゼネバを立って、北方ローザン、ベルン、ツーリヒに出で、バーデンを過ぎてミュンヘンに行き、ドイツの都会を巡遊して、チロールを過ぎり、南下してピエトラ・マラの近くで、土地より騰《のぼ》る燃ゆるガスを集め[#「ガスを集め」に傍点]、パヅアに一日、ヴェニスに三日を費し、ボログナを通ってフローレンスに行き、ここに止まって前に集めたガスを分析し[#「分析し」に傍点]、十一月の初めには再びローマに戻って来た。
ファラデーは一・二度母親にも妹にも手紙[#「手紙」に傍点]を送り、また王立協会の前途を案じてはアボットに手紙を送り、「もし事変の起るようなことでもあったら、そこに置いてある自分の書籍を忘れずに取り出してくれ。これらの書籍は旧に倍しても珍重するから」と書いてやった。また自分の属する教会の長老には寺院のお祭りや謝肉祭の光景、コロシウムの廃跡等をくわしく書きおくり、若い友人にはフランス語の学び方を述べた手紙を送ったりした。
この頃のファラデーの日記を見ると、謝肉祭[#「謝肉祭」に傍点]の事がたくさんかいてある。その馬鹿騒ぎが非常に気に入ったらしく、昼はコルソにて競馬を見、夕には仮面舞踏会に四回までも出かけ、しかも最後の時には、女の寝巻に鳥打帽[#「女の寝巻に鳥打帽」に傍点]という扮装で押し出した。
サー・デビーは、それからギリシャ、トルコの方面までも旅行したい希望で
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