》の觀察《くわんさつ》」これが此《この》根本《こんぽん》であると思《おも》ふ。
 自然界《しぜんかい》の現象《げんしやう》を見《み》ると、或《あ》[#ルビの「あ」は底本では「ある」]るものは非常《ひぜう》に美《うつく》しく、或《あ》るものは非常《ひぜう》に恐《おそ》ろしい。或《あるひ》は神祕的《しんぴてき》なものがあり、或《あるひ》は怪異《くわいい》なものがある。之《これ》には何《なに》か其《その》奧《おく》に偉大《ゐだい》な力《ちから》が潜《ひそ》んで居《ゐ》るに相違《さうゐ》ない。此《この》偉大《ゐだい》な現象《げんしやう》を起《おこ》させるものは人間以上《にんげんいじやう》の者《もの》で人間以上《にんげんいじやう》の形《かたち》をしたものだらう。此《この》想像《さうざう》が宗教《しうけう》の基《もと》となり、化物《ばけもの》を創造《さうざう》するのである。且《かつ》又《また》人間《にんげん》には由來《ゆらい》好奇心《かうきしん》が有《あ》る。此《この》好奇心《かうきしん》に刺戟《しげき》せられて、空想《くうさう》に空想《くうさう》を重《かさ》ね、遂《つひ》に珍無類《ちんむるゐ》の形《かたち》を創造《さうざう》する。故《ゆゑ》に化物《ばけもの》は各時代《かくじだい》、各民族《かくみんぞく》に必《かなら》ず無《な》くてならない事《こと》になる。隨《したが》つて世界《せかい》の各國《かくこく》は其《その》民族《みんぞく》の差異《さい》に應《おう》じて化物《ばけもの》が異《ことな》つて居《ゐ》る。
       二 各國のばけもの
 ばけものが國《くに》によりそれ/″\異《こと》なるのは、各國《かくこく》民族《みんぞく》の先天性《せんてんせい》にもよるが、又《また》土地《とち》の地理的關係《ちりてきくわんけい》によること非常《ひぜう》に大《だい》である。例《たと》へば日本《にほん》は小島國《せうたうごく》であつて、氣候《きこう》温和《をんわ》、山水《さんすゐ》も概《がい》して平凡《へいぼん》で別段《べつだん》高嶽峻嶺《かうがくしゆんれい》深山幽澤《しんざんゆうたく》といふものもない。凡《すべ》てのものが小規模《せうきも》である。その我邦《わがくに》に雄大《ゆうだい》な化物《ばけもの》のあらう筈《はず》はない。
 古來《こらい》我邦《わがくに》の化物思想《ばけものしさう
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