》は甚《はなは》だ幼稚《えうち》で、或《あるひ》は殆《ほとん》ど無《な》かつたと言《い》つて可《い》い位《くらゐ》だ。日本《にほん》の神話《しんわ》は化物《ばけもの》の傳説《でんせつ》が甚《はなは》だ少《すくな》い。日本《にほん》の神々《かみ/\》は日本《にほん》の祖先《そせん》なる人間《にんげん》であると考《かんが》へられて、化物《ばけもの》などとは思《おも》はれて居《ゐ》ない。それで神々《かみ/\》の内《うち》で別段《べつだん》異樣《いやう》な相《さう》をしたものはない。猿田彦命《さるたひこのみこと》が鼻《はな》が高《たか》いとか、天鈿目命《あまのうづめのみこと》が顏《かほ》がをかしかつたといふ位《くらゐ》のものである。又《また》化物思想《ばけものしさう》を具體的《ぐたいてき》に現《あら》はした繪《ゑ》も餘《あま》り多《おほ》くはない。記録《きろく》に現《あら》はれたものも殆《ほとん》ど無《な》く、弘仁年間《こうにんねんかん》に藥師寺《やくしじ》の僧《そう》景戒《けいかい》が著《あらは》した「日本靈異記《にほんれいいき》」が最《もつと》も古《ふる》いものであらう。今昔物語《こんじやくものがたり》にも往々《わう/\》化物談《ばけものだん》が出《で》て居《ゐ》る。
 日本《にほん》の化物《ばけもの》は後世《こうせい》になる程《ほど》面白《おもしろ》くなつて居《ゐ》るが、是《これ》は初《はじ》め日本《にほん》の地理的關係《ちりてきくわんけい》で化物《ばけもの》を想像《さうざう》する餘地《よち》がなかつた爲《ため》である。其後《そのご》支那《しな》から、道教《だうけう》の妖怪思想《えうくわいしさう》が入《い》り、佛教《ぶつけう》と共《とも》に印度思想《いんどしさう》も入《はい》つて來《き》て、日本《にほん》の化物《ばけもの》は此爲《このため》に餘程《よほど》豊富《ほうふ》になつたのである。例《たと》へば、印度《いんど》の三|眼《め》の明王《めうわう》は變《へん》じて通俗《つうぞく》の三|眼《め》入道《にふだう》となり、鳥嘴《てうし》の迦樓羅王《かろらわう》は變《へん》じてお伽噺《とぎばなし》の烏天狗《からすてんぐ》となつた。又《また》日本《にほん》の小説《せうせつ》によく現《あら》はれる魔法遣《まはふづか》ひが、不思議《ふしぎ》な藝《げい》を演《えん》ずるのは多《おほ》
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