つ》を用《もち》ゐて怪《あや》しまぬのは、畢竟《ひつきやう》歐米文明《おうべいぶんめい》渡來《とらい》の際《さい》、何事《なにごと》も歐米《おうべい》の風習《ふうしう》に模倣《もほう》することを理想《りさう》とした時代《じだい》に、何人《なにびと》かゞ斯《か》かる惡例《あくれい》を作《つく》つたのが遂《つひ》に一つの慣例《くわんれい》となつたのであらう。
 今更《いまさら》これを改《あらた》めて苗字《めうじ》を先《さき》にし名《な》を後《のち》にするにも及《およ》ばない。餘計《よけい》な事《こと》であるといふ人《ひと》もあるが、わが輩《はい》はさうは思《おも》はない。過《あやま》ちて改《あらた》むるに憚《はゞか》るなかれとは先哲《せんてつ》の名訓《めいくん》である。
 况《いは》んや若《も》しも歐米流《おうべいりう》に姓名《せいめい》を轉倒《てんたふ》するときは、こゝに覿面《てきめん》に起《おこ》る難問《なんもん》がある。それは過去《くわこ》の歴史的人物《れきしてきじんぶつ》を呼《よ》ぶ時《とき》に如何《いか》にするかといふ事《こと》である。
 徳川家康《とくがはいへやす》と書《か》か
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