つたことは色々の點に於てあるのでありますが、苦行なども確に其の一であります、印度におきましては王家に生れ、王家に育ちたるものが、其家を棄て山林に隱れたことは澤山にある、御存知の通り佛も亦其内の一人である、而して宗教に熱心にして至心苦行に從事すれば、何んな取るに足らぬ人間でも非常に恐るべき力を得ることが出來ると云ふ信仰も、後世になつて初めて起つた譯ではなくして、極古い時からして既にあつたのである、印度には紀元前五世紀即ち今からは二千四百年ばかり前に出來ましたマハーブハラタと云ふ有名な詩篇があります、其の詩の中にも或人間が矢張前に言つたやうに山林へ這入つて修業し、頭髮は蓬々として亂れ、體には木の皮の編んだものを着け、手足身體總ての處へ泥を塗り――是は一寸妙なことであるが、今でも斯やうな慣習が印度に殘つて居つて今は灰を塗る、額の處や鼻や胸へ或は白、或は赤い灰を塗つて置く――夫れで山間獨住饑渇を忍び且多年の間爪先で立つて居る――是も暫くなら誰でも堪へ得らるるが、朝から晩まで何年もと言つたら中々堪へらるる者でない――而してお負けに眼を開いて天を見て居る――是も何でもないやうに考へらるるが印度は熱帶國で中々苦しいことである――斯う云ふ行をやつた、所が神樣が之を見て思ふには彼はアヽ云ふ困難な苦行をやつて居る、彼が苦行を成就した曉には何んな恐しい力を得るか知れぬ、今の中に早く是を妨ぐるに如かぬと考へ、或は女を見せて誘惑したり或は色々苦しめて見たが、彼は少しも之が爲に屈することなくして遂に其の苦行を成就した、で神は何うしても彼に神變不可思議力を與へなければならぬやうになつた、彼は苦行を成就して得々と宅へ歸り、是までの弊衣を棄て美服に替へ啻に安樂の生活を送つたのみならず、其の神通力によつて月をして毎晩自分の住んで居る處の町を照らさしめたといふことが書いてある、實に日月の行動でも自由自在に變ずることが出來ると考へ、而して然う云ふ不思議な力も苦行によつて得られるものであると云ふことは、紀元前四五百年の頃から既に存在した信仰であつたのである、で苦行さへすれば何んな不思議なことも出來、神と雖も又彼を如何ともすべからざるので、天人共に恐れざるを得ざるものであると考へて居つた、でありますから隨分古い時代からして苦行の事は傳はつて居ります、佛教の古い經文の内にも説いてある所がある、其の當時の方法を見
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