、而して四肢はコワ張つて、其肉に觸れて見ても更に少しの温まりが無い、首は死人同樣に少しく横に肩の上に傾いて居る、胸にも腕にも脈搏と云ふものは一切ない、其の状態は殆ど死人同樣であつた、愈其檢分が濟んで、今度定より戻す時には、弟子が死人同樣になつて居る彼の肩の處へ再び湯を掛けて、能く體を温めた、夫からコワ張つて居る手足を擦り/\少しづつ延ばして行く、次に頭の上へ以て熱き小麥の粉のやうなものを振り掛け、冷ると熱いのと取り換へ、二三回ばかり同じことを繰り返し、今度は耳や其他の孔を埋めた油綿を取出す(耳に空氣を吹入れると鼻に詰つて居る綿が飛出ると云ふ、而して飛出るのが即ち生命の存する證據であると云ふことである)、それから齒は堅く喰ひしばつて居つて中々容易に開けない、其處で小刀の尖の樣なものを齒の間へ挿込んで、無理にコジ開け、左の手では顎を持つて、右の手の指で卷上げた舌を引出す、次には閉いで居る眼の瞼の上へバタの溶けたギーと云ふものを濺ぎ、而して之を摩する、數秒時經つと眼を開けさせるが、其の時は尚眼球も動かず光もない、今度は又例の熱い小麥の粉を額の處へ置く、すると體がピリツと痙攣的に運動を始める、
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