つては先づ自ら幾日間定に入ると云ふことを極める、而して其の間棺桶の中へ入つて地面の下へ埋まれ、マルで空氣も何も通はぬやうにしてしまふ、それから豫定の三週間なり四週間なりの時日が經つと之を掘上げる、其時はマルで死人同樣であるが、一定の手段方法によつて段々生返つて來るのである、彼のハリダースと云ふ人間は一番長く此の定に入ることが出來たのであります、で尚詳しく定に入る時の状態をお話申しまするですが、先づ定に入る前の豫備からして話しませう、ハリダースが定に入る最初の手段は、先づ自分で呼吸を止めると云ふことであります、是れは印度人の定に入るものヽ皆やる所であつて、是をするには中々長い間の修業を要する、先づ舌を延ばして上の方へ卷上げて喉頭を押へて呼吸を自分で止めるのであるが、初少しばかり押へる間は尚ほ微に呼吸が通ずるが終りには死人同樣に全然息が止つて而も何等の苦痛を感じないやうになる、が此の息を止める前には尚色々の豫備が要る、で愈定に入ると云ふことになりますと、其の二三日前からして此のハリダースは下劑を飮みまして而して腹の中の物を下し、其の間は牛乳を少しばかりづヽ飮むが他のものは一切取らない、何でも腹の中に物があると工合が惡いと見えて、今日入定するといふ日になると一寸より少し廣い位な布の片で、長さは三丈ばかりもある所の細長いものを口からして飮み込む、素人には中々出來さうもないが、練習をすると容易に出來るやうになる、而して彼の布片を一度飮み込んでしまふと又た次第に片端から引上げて來る、是れはツマリ胃の中を掃除して穢い物や何かを取去る爲である、それからして又大きい風呂桶の樣な桶に自分の肩位迄浸るやうに水を灌ぎ、而して細い管を肛門に挿込んで、それから水を容れて吾々の灌膓すると同樣に、穢物を出して膓の掃除をする、夫れが終ると今度は綿に油のやうなものを浸して鼻の孔や耳の孔等を塞いでしまふ、而して地面へは大風呂敷のやうな布を敷いて、其上に所謂結跏趺坐するのであります、それから前に言つた舌を捲き上げ定に入るのである、其の定に入つた人のことを書いたものを讀みますると次のやうなことがある、ズツと坐り込むと初めには先づ何だか身體の内方々に音聲が聞える、是は或は血管中の血の循環と云ふやうなものかも知れぬが、心臟の邊から首の邊、夫れからして眼の中程の處にまで音がする、而して其音が段々色々に變つて來る、
前へ 次へ
全13ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
松本 文三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング