を通る女のひとたちが、なんの苦もなささうに早足で歩いてをりますのにあきれて、どうしたら滑らないのでございませうねときゝましたら、夫は、かゝとに力を入れて大またに歩けばころびはしないよ、と真面目なかほしてもうしますので、私はいはれたとほりにして歩きだしたと思ふとすぐ、みごとに、子供みたいにころんでしまひましたの、すると、夫は面白さうに大笑ひいたすのでございます。正直なひとだ、ほんとうにかゝとに力を入れたんだな、そりや反対なのだよ、爪先に力を入れて、小きざみに歩くんだよ、と、たすけ起し、今度は私の腕をつかまへて歩いてくれました。反対なことを教へるなんて、ずいぶんなひとだと、憎らしうございましたけれど、あのひとがそんな冗談をいふのがおかしく、私より十二も年上の大人なのに、やつぱり子供みたいなところがあるので、ほつといたしました。小樽の町は言葉のあらい、みんなけんくわしてゐるみたいな口のきゝかたをいたすところですが、泣きたいやうに夜の美しい街でございます。
 あくる朝また四時間ほど汽車にゆられ、札幌を通り越してやつと夫の村に着きました。村ともうしましたけれど、村といふ言葉ではいひあらはせません
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