つたのだと気づき、涙がこぼれてきてこまりました。
 でも、夫は大変やさしいひとでございます。なんだか真面目すぎるやうな顔して、気むづかしいひとではなからうかと、ご心配なさいましたけれど、ときどき面白いことをいつて笑はせ、真面目なかほして冗談をもうしますので、びつくりいたします。小樽に下車したときでございました。十二月のさなかなので町はすつかり雪、この雪のこともくはしくおしらせしたいのですが三尺も四尺も雪がつもつたら歩けはしまいとおつしやいましたけれど、立派に歩けますのですよ。しかも下駄ばきで歩けるのでございます。そのかはり、雪がすつかりふみかためられて鏡の面のやうに硬くなつてをりますので、氷の上を歩くと同じなのでございます。はじめて小樽の街でその雪道に出ましたときは、どうにも滑つて歩けずたうとう停車場の前で立往生いたしてしまひました。
 夫は私の信玄袋まで持つてくれて、さあ大丈夫だから僕につかまつてお歩き、ともうすのですけれど、ひとさまがみてゐるのですもの、つかまつてなど歩けはいたしません。よろしいのでございますよ、と一足二足あるき出しましたが、軽業の玉のりみたいなのでございます。そば
前へ 次へ
全21ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
辻村 もと子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング