でも胸がいつぱいになります。この広い耕地を十年十五年の後にはすつかり水田にする積りだと夫はもうしてをります。夫はまだまだ開墾して畑になつたゞけでは満足してゐないやうすです。只今はこちらでは水稲は殆ど作つてをりませんが、いまに風土に合つた稲の品種改良がされゝば、きつと、内地のやうな水田にして、北海道で使ふお米は北海道でまかなへるやうにしなければならないのだなどゝ、夢のみたいなことを考へてをります。ほんとにお父さまが丈夫だつたらどんなにかお気が合ひ、よいお話し相手であらうと思ひます。
 なにかくどくどゝ書いて大切なこと忘れるところでございました。どうぞお叱りにならないでおきゝ下さいまし。それは、あの箪笥を買ふために下さいました百五十円のお金、実は浩造さまの土地のことで、どうしてもお金が足りず夫も心配してをりましたので、さし上げることにいたしました。
 十勝の方の土地がなかなか道庁からの貸下げ許可がおりませんで、困つてをりますやさきに、雨龍と申しますところの本願寺所有の未開地が開放され、安く売りにでたのでございます。夫は、おまへの金は必ず返しお母さまのご丹誠の箪笥を買つてやるといひますが、私
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