体質をそのまゝ受けた私を、どうかして丈夫に育てあげたいとのご苦労も知らず、生れた家でわがまゝいつぱいの春江を羨み、家に帰つてからさへとき折りは、すねておみせしたり、ほんとに悪い私でございました。
今度の結婚のことも、なにもえりにえつて流刑のひとの行く北海道くんだりまで追ひやらなくとも――などゝ、意地悪くそんな意味のこといふひともありましたのに、亡くなつたお父さまは以前から拓殖の志のあつた方だ、箱根の仙石原を開墾して楮の木を植ゑ初めなすつたり、鴨の宮の池を埋めて造田の計画をおたてなすつたりなすつた方だ。お父さまはおまへが北海道の開拓者の妻になれば、ご自分の志をつぐものとおよろこびなされるであらう。と、反対を押しきつてきつぱり今度のはなしをきめて下さつたお心も、今にしてはつきりうなづけるのでございます。
こゝの春はむせるやうな生々したものでございます。お母さまにこの落葉松の緑玉を粉にしてふりかけたとしかみえぬ新芽をお目にかけたうございます。裏の原始林には夜の白々あけから、くろつぐみや山鳩がなき、見渡すかぎり山ぎはまで続く農場の耕地には作物がまかれました。とりいれの日の素晴しさを想ふだけ
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