く分らないらしうございます。それから、リスとポンチと呼ばれる大きな猟犬が一つがひ。リスはポンチの奥さんなのですが、リスはなかなか旦那さまおもひで、自分ひとりだけでは決してごはんをいたゞかず、皆がわざとからかつて、リスの食器にだけ食物をやりますと、ポンチの空の食器をくはへてまいりポンチの分をさいそくいたすのでございます。それに鶏が十羽ほど。生きものゝ世話だけでも大変なことでございます。
 二人の男衆がをりますがこのひとたちは馬屋の二階が部屋になつてゐまして、そこにねとまりいたし、ばあやとその孫娘の小浪ともうすちゞれ毛の少女は母屋の方に住んでをります。それに浩造さま御夫婦と私共、これだけがこの家の家族ですが、みんなさつぱりといたしてをり、なんの気兼もございません。
 雪道を歩くにも働くにも、こちらの女のひとたちはモンペと申すモヽヒキのやうなものはいて居りますので、私もあの唐桟の着物をほどき、これからおまきさまに教へていたゞいてこしらへます。夫は冬の中に足ならしをしておくやう明日から山に猟に連れてゆくと申してをります。
 ちつとも、心細いことございませんからご安心くださいませ。お母さまの神経痛いかゞでせう。湯の花はお勝手の棚の一ばん右の隅に甘納豆の箱に入つてをります。
 お兄さまも、もう冬の休暇でお帰りなされてゞございませう。春江にもどうぞよろしく。
   十二月十日[#地から1字上げ]ちよ
  母上さま

 新年のお祝詞もうしあげたきり、ずいぶんながくお便りさしあげず、どうしたことかとご案じあそばしてゞありませう。ちよつと風邪をひきぶらぶらいたしましたが、おかげさまでもうよろしく、昨日あたりから起きてストーブのそばで夫の野良着のつくろひなどいたしてをります。夫もきげんよく、いつもやさしくいたしてくれますゆえ、なんにも淋しいことはございません。病気のあひだは、自分でわざわざお粥をたき、いり玉子など上手にこしらへてくれました。お料理が上手なのですね、とほめましたら、開墾中はいつでも男世帯で、なんでもやつてゐたのだもの、料理ならなんでもお前よりは上手かもしれんと笑つてをりました。ほんとに猟でとつて来た野兎など、とても凝つたお料理いたしますの。風邪をひきますまへは、毎日のやうに夫や浩造さまとごいつしよにモンペにカンジキともうすもの――これは雪に足の埋まらぬやうに、軽い木を曲げて
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