た。
 一ばん左のはじの扉の前には、素燒の線香立てと、しきみの葉が飾られてあつた。高村の伯父が火をつけた線香を一本づつみんなに配つた。そして一同は妙にひきつつた樣な緊張した面持で、それを一本一本かたくなつた灰の上につきさしては扉にむかつて手を合せた。
 それがすむと、どこからか二人の隱坊が出て來て扉の錠をガチャリと廻した。物も言はないその二人の人物は、全く違つた世界に住む人々の樣に、だまつて觀音開きの扉をあけた。
 何かおしやべりをしてゐた子供達まで急におびえたやうに靜まりかへつた。
 暗がりの中からガラガラと音をたててひき出された厚い鐵板の上にはふわふわと吹けば飛びさうな白い灰が小高く積つてゐた。ただそれと解る位黒くなつた頭部と、骨盤から下肢の骨とがその灰の中にうづまつてゐた。そして足の方らしい所には納棺の時に入れた鞋がそのままの形で灰になつてゐた。
 東京の伯母と母とが同時に手を合せて、
「ああ、おばあさん――」と言つた。
 他の者はみな一樣にひきつつた樣な沈默の中にはたらく隱坊たちの指圖をまつてゐた。隱坊たちは「どうぞ――」と言つて、すぐ影のやうにどこかにかくれてしまつた。臺の上
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