んすね、こんなときは――すぐに一服」と母が靜岡の伯父に話しかけてゐた。靜岡の伯父は何とも答へずに腰から拔いた煙草を口にもつていつて火をつけた。小説家の從兄は用意してゐた小刀で傍の藪から小さなしの竹を切つて手頃な杖をこしらへてゐた。それを孤兒になつた從兄がもうはうとして待ちかまへてゐるのが何となくいぢらしかつた。
「よく燒けてゐるよ――」弟や從兄がいつの間に行つたのか眞面目な顏をして歸つて來てみんなに報告した。青葉のかげに黒い大きな煙突の見えるのがそれらしかつた。私はそれを聞くとぎくり[#「ぎくり」に傍点]とした。そして今更の樣に何をしに來たのだつたかを考へた。
「きれいなものだよ――」と從兄が言つた、
「見て來たの、ほんとに?」と高村の伯母、
「ああ、よく燒けてゐるつて留さんが言つてた」と弟。
私はきくともなしにその會話をきいてゐた。そして不思議に安堵に似た靜かなこころに歸つて行つた。
「ではどうぞ――、御仕度が出來ました」留さんが繁みの中から出て來て告げた。
青い空を背景に石でたたんだ三つの竈があつた。一つ一つに丈夫な錠がかけられてゐて、鐵の扉のまはりの白煉瓦は煙で黒くすすけてゐ
前へ
次へ
全10ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
辻村 もと子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング