に、鐵板のままのせられた灰の中から、一同は青竹の箸で小さな骨片を拾ひあげた。
「この黒い所が病氣だ」と高村の伯父が頭部の黒いふかふかした腦細胞らしいものを箸の先で拾ひあげて壺の中に入れた。
目の惡い東京の伯母が、母に示された小さな骨をおぼつかない手つきで拾ひあげてゐるのがたまらなかつた。
恭介伯父が、一かけらをも見のがすまいとして細い箸の先で、木の燒け殘りと骨とをえり分けてゐるのもいたましかつた。
骨はかなり大きな素燒の壺と小さな曲物とに分けて納められた。白い布に包まれた壺を私の弟と從兄とが代り代りに持つて、一同は來た道とは反對の山道を通つて町はづれの長寺にむかつた。
雜木林の山をぬけると、その中腹にたつた中學の大きな校舍のそばに出た。
道は細くてやや急な勾配であつた。落葉がみんなの足の下でガサゴソと鳴つた。
「春だのに――何の葉かしら」と私がひとりごとのやうに言つた。
「櫟ぢやありませんか――ツルゲネーフの小説によく出て來る。櫟の葉は春、若葉が出ると一緒に散ります」と小説家の從兄が説明した。
春の落葉をふんで私たちは山を下りた。
夕方、靜岡の伯父は分骨の小さな包をもつ
前へ
次へ
全10ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
辻村 もと子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング