みに目を集めた。
「分骨するんだが――」と靜岡の伯父が言つた。
「へい。用意いたして參りました」留さんは小腰をかがめて靜かに答へた。
電車を降りると、すぐだらだら坂にかかつたが、道は細くほこりつぽかつた。靜岡の伯父は高村の伯父にならんで老人とは思はれない速さでぐんぐんのぼつて行つた。母と高村の伯母にたすけられた東京の伯母は、從兄のこしらへた青竹の杖にすがつて、どうやらこうやら足をはこんでゐた。その先になつたり後になつたりして小さな子供たちがおそろひの木綿の紋着を着て、從兄弟たちにおだてられながら登つて行つた。
恭介叔父は、小説家の從兄とならんで一ばん後から何か話しながら歩いてゐた。
「おい久子――これが北村恒春の家だつたんだねえ?」伯父は坂の中途の竹藪の中の藁ぶき屋根をゆびさして、從兄に示しながら前を歩いてゐた私に聲をかけた。
「ええ――。いいところですわね。空家にしておくのは惜しいやうね」と私は答へた。無口な從兄はだまつて笑つてゐた。
それから伯父と從兄とは、近ごろ少女雜誌や何かにセンチメンタルな詩劇を書いたりして名を賣つてゐる伯父の中學時代の友達の上山秀雄に就て話しだした。
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