暮してゐたから、祖母は叔父のこと子供たちのことで此の五年間といふもの頭の休むひまもなかつた。二番目の伯父が死んでも靜岡の伯父は一向に平氣な顏をしてゐた。
 生前から腹違ひの二番目の伯父とは犬と猿ではあつたが、何といつても本家分家の間柄であるのに、と若い私さへふしぎなことに思つてゐた。その伯父が、今度は何と思つてか祖母の死を報せると矢のやうにとんできて、何から何まで一人で世話を燒いてゐた。
 妙なものだ――。私は死んだ祖母と大して年の違はないらしい靜岡の伯父の丈夫さうな老體を見ながら考へた。電車は涼しい朝風の中をガタゴトと古びた城下町のはづれにかかつてゐた。
「おめでたがあつても親類中こんなに集まるものぢやないけれど、――やつぱりたまに肉親の寄るのはいいものですねえ」母が力のぬけたやうな聲で東京の伯母に話しかけてゐた。
 小さな電車には家の一族だけで誰も乘つてゐなかつた。子供たちは若い從兄弟たちとうれしさうにふざけてゐた。町はづれの停留所で、留さんといふ出入りの仕事師が汗をふきふき入つて來た。留さんは白い布で包んだ四角な骨壺の入つた箱をもつてゐた。皆は一寸緊張した顏つきをしてその四角な包
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