愛した躑躅の花が赤くうつつた。
 昨日の朝、白木の棺に納めたときの、あの冷たく重い祖母の體の埋まるほど入れた赤い花が、今ごろはその體と一緒に灰になつてゐるのだと思ふと、何となく不氣味な感じがした。
 皆の仕度が出來て出かけたのはもう九時少しまはつてゐた。靜岡の伯父は、皆の出ようが遲いと云つて一人でぶつぶつ憤つてゐた。誰も知らん顏をしてゐるので、一ばん年上の東京の伯母が傍によつて何やかやと御機嫌をとつてゐた。
 死んだ祖母も生さぬ仲の靜岡の伯父にがみがみ言はれながら骨をあげてもらふのでは、いい氣持はしないだらうにと、私は苦々しく考へながら小さな從弟に下駄をはかせた。
 頼りにしてゐた二番息子に、震災の時に急にその妻と一緒に死なれてからといふもの、三十の時から後家で通した氣丈者の祖母もぐつと弱つてしまつてゐた。それにその伯父の殘した二人の孤兒をひきとつてくれた三番目の伯父が、同じ宮崎を名のらないで、名義だけではあつたが、高村の養子分になつてゐたので、祖母の苦勞は一通りではなかつた。
 孤兒の後見人になつてゐる恭介叔父もまだ妻帶してゐないので、祖母や子供たちと一緒にごたごたと高村の伯父の家で
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