―職員会はあるの? そこで子どもの問題や、教育上の悩みなど語ったりしないの?
 彼女は、この問いには事務的な報告的な職員会はあるが、先生方の討論や研究のための会議のないことをこたえた。
 わたくしは、子どものしつけについて民主的なしつけ方のことを、わかりやすく語り、まず当分の自然観察の仕事として、「ほたる」と「かいこの卵」の二つの教材を選んで、その作業や授業のすすめ方を一緒に計画し、教案の略すじをまとめてやり、その指導の結果を夏休みのあとにもってくることを約束したのだった。
 教案や、わたくしのかし与えた資料をK子はとても喜んで、きっとがんばってやってみると言い、最後にしんみりと、
 ――先生、わたし近ごろ力がないことがはっきりしてきたの。何をやるにも基本的な勉強をしていないんだもの。二学期からやらねばならない社会科なども、さっぱりわからないの……。
 そんなことを語って、K子は夕方元気をとりもどして、また訪ねてくると言いのこして去ったのだった。



 このように、教育の問題を悩みぬき、子どもたちを愛しつづけた良心的なわかい女教師が、美しい谷川の淵に身を沈めたのである。死の直前まで
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