くしはK子に、
 ――いまの話がよくわかるか。
ときいてみた。K子は真剣な顔になって、わからないこと、村にいて村の生きた姿がつかめないことのかなしさなどを訴えた。わたくしは、農村の先生が農村のことを知らないではこまるから、すこしずつ勉強することをすすめて、やさしい参考書なども二、三冊紹介したりしたのだった。
 そのあとで、K子は、今日の来意をつげて、ノートをだしながら、教育の問題について、いろいろとわたくしに問いただすのだった。この日、K子が用意していた問題は、子どものしつけの問題と、自然観察の指導と社会科の知識などであった。
 戸数二百たらずの山村の荒っぽい子どもたちと父兄とは、たとえどんなにすぐれた優等生型の頭脳をもっているK子でも、温良な性格と女学校をでたばかりの若さではつらい生活の相手であっただろう。三、四年の複式学級をもっていた彼女が、子どもたちのしつけの問題に悩みつづけていたことは、わたくしや妻への話でよくわかる。
 毎日のように、子どもたちのけんかがある。一時間じっと学習することのできない子ども、間接授業の子どもたちのさわがしさ。学用品のない子ども。平仮名の書けないたくさ
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