彼らを見守っていて、警報のサイレンによって、子どもたちに待避を命ずるだけの存在たろうとしていた。
午睡からさめると、まず六歳になる女の子は、その上の九つになる兄と虫あさりをする。兄たちが自然観察のために昆虫採集をするので、この女の子は、なかなか虫たちと友だちである。もういつのまにか二人の姿は、木立のむこうに見えかくれしながら、虫をあさっている。
木の枝にぶらぶらさげていたぼくの腕時計を眺めていた長男坊は、次男坊を促して勉強を始めようとしている。ここへ移った時、ぼくは二人に、戦争中も大好きな数学の研究を止めなかったアルキメデスの話をしてやったのだった。
おれの円を踏んではいかん。
と無知なローマ兵に叫んだ彼が、その無知な兵卒のために、まれにみるこの数学者の血は、彼自身の描いた円の上を鮮血に彩ってたおれたという話。そのあとで尋常科五年の長男は、四年の次男と約束し合っていた。
よし、ぼくらもどんな空襲にあっても勉強を休むまい。空襲で死ぬときは鉛筆を握って死ぬぞ。
二
その子どもたちも、平和日本の秋を迎え、あの防空のために待避した山には、どんぐりがみのり、味のよい茸が子
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