子どもの世界
村山俊太郎
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一
ゆるやかな傾斜が、午後になると西南の陽をいっぱいに受けていた。一本の太い楢の枝が屋根代用となり、その下に密生している若い楢の梢が適当な防空天幕となっている。このなかの熊笹をかりとって、筵三畳の防空陣である。山すその青田から吹きあげる風が、山全体の濶葉樹の梢をゆすり、風の音がさわさわと深緑の感覚を呼ぶ。
この樹の下に四人の子どもはぼくをとりまいて風の音をきいていた。風の音にまじって虫の声がきこえ、小鳥の遠音もまじってくる。筵の上にあおむけに寝そべっていると、青い木もれ陽が、どの顔をも美しく彩るのである。彼らの心は、どれもたのしく明るく、ともすればバネのようにはねかえろうとする弾力が見られる。これが空襲を避けている子どもたちの顔であるとは思われないのである。
子どもたちが、心明るく楽しい時は、自由のなかにひたっている時であり、たいていおとなの世界から解放されている時である。ぼくは毛布にくるまったまま、黙って
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