。正面きって、大威張りで会いに行こうじゃないか。
(どうぞ、いつまでも、変らないで、ちょうだい)
有頂天な囈言だなどとは思うまい。心情の美しく高い飛躍にとって、こういうケチな反省ぐらい邪魔なものはない。そのままに信じて、会いに行こう。
気概はどうあろうと、こちらは一介の国際的ルンペン。一国の王女と結婚しようなどという無邪気なことは考えまい。もっと高く、もっと美しく、断末魔の間一髪に、この恋愛を完成させよう。
澎湃《ほうはい》たる熱情の波にゆられながら、竜太郎は叫ぶように、いった。
「よし、戴冠式の行列を擁してやろう!」
舗石をおれの胸の血で染めて、日本人はどんな恋愛の仕方をするものか見物させてやろう。少女の足下で胸を射貫かれて死んだら、明日死ぬと誓ったこともはたされるわけだし、虚偽だらけなじぶんの半生の最後に、ただ一度、真実の朱点を打って死にたいという望みもかなうわけである。そして、そこに高く美しい心情の完成がある。じぶんの人生に於ける最後の大祝宴。心の戴冠式だ。
「戴冠式の馬車に向って、まっ直ぐに歩いて行こう。二つの戴冠式の合歓。……習俗の弾丸がおれの胸を射貫き、おそらく、五
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