というんです、お嬢さん)
 明日、必ず自殺するつもりだと言い切ると、いきなりこの指が絡みついて来た。このちっぽけな頭の中で、いったい、どんな陰謀をたくらんでいるのか。……何にしても、解しかねる次第だった。
 揺椅子の中で、劇しく呟きこむような声がする。振りかえって見ると、小女が声を忍ばせながら啜り泣いているのだった。
「どうしたんです」
 少女は、劇しい勢いで椅子の背に頭を投げかけると、よく響く声で、笑いはじめた。
「なんでもありませんの。……竜太郎さん、あたくし、しあわせよ。……ああ、いま、どんなに、しあわせだか!」
 そういうと、また、沁みるような細い声で泣き出した。
 湿った海風が、二人の上を吹いて通る。
 竜太郎は、なんとなく、しみじみとした気持になって、土壇に膝をつくと、少女の手頸にそっと唇を触れた。竜太郎の耳に、少女のはげしい息づかいの音がきこえた。
「この椅子に、……あたくしのそばへ坐って、ちょうだい。……しっかりとあたくしの手を握って、……なにか、お話をして、ください。……あたくし、こうして眼をつぶって伺っていますわ」
 竜太郎は、少女と並んで掛けた。柳の枝のようによく
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