の女も決して生かしてはおかぬというようなことを、繰返し繰返し仰せられます。痴話のなんのという段ではなく、顔を蒼白ませて、呪言《のろい》のように言われるのですから、さすがのあちきも恐しくなり、従って心も冷えますから、急に瘧《おこり》が落ちたようになる。三度の文も一度になり、仮病《にせやまい》をこしらえたり旅へ出たり、何とかして遠退《とおの》く算段《さんだん》ばかり。とうとう、ふっつりと縁は切れましたが、それでも、二人が初めて出逢った一月の三日には、この十年の間、欠かさず細々と便りがございます」
源内先生は、ふう、と息をついて、
「これは[#「「これは」は底本では「 これは」]大した執念だ。……して、その殺手姫さまといわれる方は、どこにどうしていられる」
「噂に聞きますとお父上さまのお亡くなりになった後、何かたいへんにご逼迫《ひっぱく》なされ、江戸の北の草深いところに、たった一人で住んでいられるということでございます」
行きついた所
「どうだ、わかったか」
「へえ、わかりました」
「どんな工合だった。餌取は白状したか」
伝兵衛、この冬空に、額から湯気を立て、
前へ
次へ
全45ページ中37ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング