くんなさい。なるほど、そういう訳だったのか。伺って見ればご尤も。……雪の上に足跡がなかったという謎も、これでさっぱりと解けます」
と、いって有頂天になって、ひとりで恐悦している。
源内先生は、爪先をぶらぶらさせながら、かぼそい声。
「おい、伝兵衛、おれの方は、どうなるんだ。早くしてくれ、腕がちぎれる」
伝兵衛は、急に腑に落ちぬ顔になって、首をひねっていたが、
「今すぐ行きますが、その前に、もう一言。……ねえ、先生、星ってのは、夜だけのもんでしょう。それが、昼間隕ちて来るッてのはどういうわけなんです」
「この火急の場合に愚《おろか》なことを尋ねてはいかん。星は年がら年中空にあるが、日が暮れぬと、われわれの眼には見えんだけのことだ。隕ちたけりゃ、昼だって隕ちるさ。そういうわしの方も、もう間もなく落ちる。来るなら、早く来てくれ。おれは、まだ大切なことを知っているのだが、助けてくれぬうちは言わぬことにする。……ああ、落ちる落ちる。わしを殺すと玉なしになるぞ!」
上上吉若女形
源内先生は、何を探すつもりなのか、四ン這いになって浜村屋の物干台の上を這い廻っていられ
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