#「からざ」に傍点]が切れると、否応《いやおう》なしに地面の上に隕ちて来る。お前も覚えがあるだろう、えらい勢いで鉢合せをすると、眼から火が出たという。つまり、その理窟で、そういう厖大なものが、えらい勢いで隕ちて来るのだから、空気の摩擦のために火を発し、隕ちて来る途中で追々に燃え減って、地面に達せぬうちに消滅してしまう。また、地球まで届いたとしても、大方は、極めて小さな無害なものになっているから、あまり誰も気がつかぬ。殊に、人里離れたところや、大海の中に隕ちたものは、誰の眼にもつかずに終ってしまう。しかし、流星の方には、別に遠慮のあるわけではないのだから、あながち、辺鄙《へんぴ》なところや海の中にばかり隕ちるとは限らない。この江戸の真中へ隕ちて来ても一向、差支えないのだ」
「いかにも、それは、そうです」
「西洋に於ても、そういう例はあまりたんとはないが、運悪く行き合わせた人間が、その石のために頭を割られたようなことは無いでもない。甚だ稀有なことだが、今度の場合などは、まさに、それだ。……おい、伝兵衛、もう、これ位で勘弁してくれ。とても、保ち切れなくなった」
「まあまあ、もう少し辛抱してお
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