いことになった」
 伝兵衛は、泣き出しそうな顔になって、
「先生の面目なんぞはどうだってかまいませんが、これが見込み違いだったとなると、大形《おおぎょう》に番屋中に触れ廻った手前、あっしは引っ込みのつかないことになってしまいます。これはどうも、弱った」
「……どうも、こりゃ星のせいではなかろうと思われる。……それはそうと、伝兵衛、お前、今朝死んだお蔦というここの娘の創も、この前の二人と寸分|違《ちがい》はないといったな」
「へえ、そう申しました」
「可笑《おか》しいじゃないか。仮に、隕石だとすると、どういうわけで、そうキチンと頭の真中にばかり隕ちて来るんだ。何故《なにゆえ》に、肩や尻にも隕ちないんだ」
「なるほど、これはチト可笑しい」
「創にしてからがそうだ。お前の言うところでは、深さといい、形といい、だいたい、三つとも符節を合したようになっているという。隕石に、そんな器用な芸当が出来るものか。その場合場合によって、必ず深浅大小《しんせんだいしょう》の差異が出来るはずだ。時には、頭が砕《くだ》けたようなものもあっていいわけだろう」
「へえ」
「それから、もう一つ訝《おか》しいことがある。この前の二人は、余程の浜村屋贔屓とみえて、髪は路考髷に結い、路考茶の着物を着、帯は路考|結《むすび》にしていたそうだ。ところで、ここへ来る通りがかりに、お蔦というあの娘が寝かされているところをチラと見かけたが、これもやはり路考髷を結って、路考茶の着物を着、帯を路考結にしている。これは、いったい、どうしたというわけなんだろう。……不思議な死に方をした三人の娘が、揃いも揃って路考づくめ。すると、隕石ってやつは、だいぶと路考|贔屓《びいき》とみえるの」
「ごじょうだん」
「久米《くめ》の仙人でもあるまいし、隕石が路考贔屓の娘ばかり選んで隕ちかかるというわけはなかろうじゃないか。だから、これは、隕石などの仕業じゃない。何か、もっと他のことだ」
「すると、いったい……」
 源内先生は膠《にべ》もなく、
「それは、わしにもわからん。あとは勝手にやるさ」
「ここで突っ放すのはむごい」
「突っ放すも突っ放さないも、この後は訳はないじゃないか。どっちみち、路考に引っ掛りのあることに違いない。……その方を手繰ってゆけば、かならず何とか目鼻がつく。……おまけついでに言ってやるが、わしの考えるところでは、お
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