へ人間が一人ずつ入って肩担《かたにな》いに担ってゆく。
 象の前には、道袍《トウパウ》に三角の毛帽をかぶった朝鮮人の行列が二列になって二十四人。
「糀街《こうじまち》」と唐文字《からもじ》を刺繍《ぬいとり》した唐幡《とうばん》と青龍幡《せいりゅうばん》を先にたて、胡弓《こきゅう》、蛇皮線《じゃびせん》、杖鼓《じょうこ》、磬《けい》、チャルメラ、鉄鼓《てっこ》と、無闇《むやみ》に吹きたて叩きたて、耳も劈《つんざ》けるような異様な音でけたたましく囃してゆく。
 さて、事件は、こんなふうに始まった。
 一番から四十六番までの山車、最後の四十六番は、常盤町《ときわちょう》の僧正坊|牛若《うしわか》人形。
 すぐ後が、御神輿。
 各町から一人ずつ五十人の舁人《かきと》。白の浜縮緬に大きく源氏車を染め出した揃いの浴衣。玉襷《たまだすき》に白足袋《しろたび》、向う鉢巻。
「御神輿だ、御神輿だ」
「山王様でい」
 威勢よく、ワッショイワッショイと揉んでくる。
 その後へ小旗、大旗、長柄槍《ながえのやり》、飾鉾《かざりぼこ》が三本。神馬《しんば》が三匹。それから、いよいよ象の曳物。いま言ったように朝鮮人
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