てこれが大変なはずみよう。毎年の猿の山車のほかに、年番附祭《ねんばんつけまつり》の例にならい、朝鮮人来朝の練物と、小山のような大きな白象の曳物を出すというので、これが江戸中の大評判。
 毎年は出さず、年番に当った年だけ曳出す。
 高さは四間、頭から尻尾までの長さが六間半。鼻の長さだけでも九尺余りある。
 平河町の大経師《だいきょうじ》、張抜拵物《はりぬきこしらえもの》の名人、美濃清《みのせい》が二年がかりでこしらえたもの。
 木枠籠胴《きわくかごどう》に上質の日本紙を幾枚も水で貼り、その上へ膠《にかわ》でへちま[#「へちま」に傍点]をつけて形を整え、それを胡粉《ごふん》仕上げにしたもの。
 享保《きょうほう》十三年に渡来した象を細かいところまで見て置いたと見え、芭蕉の葉のような大きな耳から眼尻の皺、鼻の曲り、尾の垂れぐあいまで、さながら生きた象を見るよう。
 普賢菩薩の霊象に倣《なら》って額に大きな宝珠《ほうじゅ》がついている。鈴と朱房《しゅぶさ》のさがった胸掛《むなかけ》尻掛《しりかけ》。金銀五色の色糸で雲龍を織出した金襴《きんらん》の大段通《おおだんつう》を背中に掛け、四本の脚の中
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