さじき》をかまえ、白幕《しらまく》やら紫幕。毛氈《もうせん》を敷いて金屏風を引きまわし、檐《のき》には祭礼の提灯を掛けつらね、客を大勢招んで酒宴をしながら、夜もすがらさざめいて明けるのを待っている。
何しろ江戸一の大祭なので、当日は往来を止めて猥《みだ》りに通行を許さず、傍小路《わきこうじ》には矢来《やらい》を結い、辻々には、大小名《だいしょうみょう》が長柄《ながえ》や槍を出して厳重に警固する。
十四日は渡初《わたりぞ》めといって、山車、練物はみな山王の社《やしろ》に集まってここで夜を明かし、翌十五日の暁方からそろそろと練り出す。
御幣、太鼓、榊《さかき》を先に立て、元和《げんな》以来の古式に則って大伝馬町の諫鼓鶏の山車が第一番にゆく。行列長さだけで二十丁。山下門から日比谷の壕端《ほりばた》に沿い、桜田門の前から右へ永田町の梨《なし》の木坂《きざか》をくだり、半蔵門から内廓《くるわ》へはいって将軍家の上覧を経、竹橋門《たけばしもん》を出て大手前《おおてまえ》へ。それから、日本橋を通って霊岸島まで練ってゆく。
今年は麹町の年番で、一丁目から十三丁目までの町家が御役《おやく》になっ
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