あさがみしも》、馬に乗った法師武者《ほうしむしゃ》。踊屋台《おどりやたい》がくる、地走り踊がくる、獅子頭《ししがしら》、大神楽《だいかぐら》、底抜け屋台、独楽《こま》廻し、鼻高面《はなたかめん》のお天狗さま。
 京都の祇園《ぎおん》祭、大阪の天満祭、江戸の山王祭、これを日本の三大祭という。
 六月十四、十五日は永田馬場《ながたのばば》、日吉山王権現の御祭礼。
 山王権現は徳川家の産土神《うぶすながみ》。半蔵門内で将軍家の上覧《じょうらん》に入れる例なので、御用祭とも、天下祭ともいう。
 南は芝、西は麹町《こうじまち》、東は霊岸島、北は神田。百六十余町から出す山車、山鉾が四十六。ほかに、附祭《つけまつり》といって、踊屋台、練物《ねりもの》、曳物《ひきもの》数さえつばらに知れぬほど。華美を競い、贅を尽して、その美しさは眼を驚かすにいたる。
 辰年《たつどし》六月に日本橋|通《とおり》一丁目、二丁目が年番に当った時、この二ヶ町で八千八百両の費用がかかった。
 揃いの縮緬の浴衣《ゆかた》に赤無垢綸子《あかむくりんず》の褌《ふんどし》などはお安いご用。山車人形の衣裳に二千両、三千両。女房も娘も叩
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