にとぞ、ごせっかく。ずいぶん精を出して、犬骨を折って鷹に取られねえよう、ご用心」
憎まれ口をきいて、いつものように前屈みになってセカセカと出て行った。
目ッぱの吉五郎は、忌々《いまいま》しそうに重右衛門の後姿を見送りながら、伝兵衛に、
「いま重右衛が呟いていたのを聴くと、これは清元里春という女だそうですが、いずれ、何か祭に絡んだ遺恨でもあったものと思われますが……」
と言いながら、小柄な身体を二つに折るようにして伝兵衛のそばへ蹲《うずく》まり、
「どんなことがあったって、死骸を脚から腹へ送り込むというわけにはいかないから、たぶん、どこかへ穴をあけてそこから死骸を放りこみ、穴をもとの通りに塞いだのにちがいねえと思いますが、あなたのお推察《みこみ》はいかがです」
伝兵衛は、頷いて、
「俺もさっきからそのことを考えていたんだ。象の周囲《まわり》をグルグル廻って見たが、胴も腹も古い細工で、塗直したようなところも見当らねえ。……もしそんなところがあるとすれば、あの段通《だんつう》の下。……おい、目ッ吉、象の肩にかかっているあの段通を引ン捲《めく》って見ようじゃないか」
「ええ、やって見ま
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