めたが、骨組さえ挽切れば、後は胡粉と膠《にかわ》で固めた日本紙。挽くほどもなく肩まで入るほどの穴がパックリと黒い口をあける。
「おい、龕燈」
 穴から龕燈を差入れ、象の胎内を照しつける。
 見るより、伝兵衛、アッと叫び声をあげた。
「象の腹の中に若い女が死んでいます」
 麻の葉の派手な浴衣《ゆかた》に、独鈷繋《とっこつな》ぎの博多帯、鬘下地《かつらしたじ》に結った、二十五、六の、ゾッとするような美しい女が、浴衣の衿元から乳の上のあたりまで露出《むきだ》しにしたひどく艶めいた姿で、象の下ッ腹の窪みにキッチリ嵌込《はめこ》むようになって死んでいる。左の乳の下がドップリと血に濡れて。
 薄くあけた切《きれ》の長い一重目《ひとかわめ》の瞼の間から烏目《くろめ》がのぞき出し、ちょっと見ると、笑っているよう。
 匕首《あいくち》かなんかで一突きに刳《えぐ》られ、あッと叫ぶ間もなく縡《ことき》れたのにちがいない。この穏《おだや》かな死顔を見ると、その辺の消息が察しられるのである。
 それッ、というので、象の胸先を縦に挽き切り、下ッ引が四人がかりでソロソロと死体を引出す。
 地べたへ菰《こも》を敷き、
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