しゃく》に触る。
真中の窪んだしゃくった面で、鉢のひらいた福助頭《ふくすけあたま》。出ッ張ったおでこの下に、見るからにひとの悪るそうなキョロリとした金壺眼《かなつぼまなこ》。薄い唇をへの字にひき曲げ、青黒い沈んだ顔色で、これが痩せこけた肩をズリ下げるようにして、いつも前屈みになってセカセカ歩く。ちょうど、餓鬼草紙《がきぞうし》の貧乏神といった体《てい》。
伝兵衛のほうは、綽名《あだな》の通り出ッ尻で鳩胸。草相撲《くさずもう》の前頭とでもいった色白のいい恰幅《かっぷく》。何から何まで反対なので、二人が並ぶと、実以《じつもっ》て、対照の妙を極める。
こんなことも大いに原因している。向うでも嫌な奴だと思っているのだろうが、こちらでも気に喰わねえと、思わず眉が顰《しか》む。そうなくても、敵同志のような南と北。しっくりゆこうはずがないので。
葭簀《よしず》を分けるようにして入って行くのを、象の後脚《うしろあし》のところに蹲《しゃが》んでいた重右衛門、首だけこちらへ捩向《ねじむ》けて、眼の隅から上眼で睨め上げ、ふふん、と鼻で、笑った。
「おお、出ッ尻か。この節ア、だいぶと、精が出るの」
前へ
次へ
全41ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング