なる。久美子は空しい抵抗をつづけながら、だんだん深く沈む。水明りが薄れ、眼の前が真っ暗になった。
久美子は霞みかける意識の中で敏感すぎたせいで殺されるのだと、はっきりと覚《さと》った。
三時近くになって、本庁の加藤主任のパッカードがロッジの前庭に走りこんできた。そのうしろから県警の連絡員が乗ったジープがついてきた。
加藤組の私服たちはジリジリしながら主任の来るのを待っていたらしい。ガレージの前で同僚と立話をしていた木村という部長刑事は主任の車を見るなり、あたふたとドアを開けに行った。
「部屋長《へやちょう》さん、お待ちしていました。どこにいらしたんです」
「県警本部へ連絡に行っていた」
加藤主任はすらりと車からおりると、ガレージの前にいる年配の私服に声をかけた。
「畑中君、ちょっと」
畑中と呼ばれた私服は、はっというと、二人のそばへ飛んできた。
「打合せをしておきたいことがあるんだ……湖水のそばで一服しようや」
林の中にうねうねとつづく、茶庭の露地のような細い道をしばらく行くと、だしぬけに林が終り、眼の前に湖の全景がひらけた。
朽ちかけた貸バンガローが落々と立っているほ
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