湖水の底を探すより、キャンプ村のバンガローでも探すほうが早道だろうということよ」
石倉が軋るような声でいった。
「大池さんはバンガローにはいません。居たら幽霊だ……バカなことを言っていないで、船に乗ってください」
「それで、どこを探そうというの?」
「昨日も申しましたが、最深部の吸込孔を」
「この湖水に、吸込孔なんか、あるんでしょうか」
「湖水を知り尽しているようなことをいうけど、もし、吸込孔があったらどうします」
「あるなら、見物したいわ……あたしにとっても、興味のあることなのよ」
「お見せしましょう」
アクア・ラングを積んだ平底船が船着場に着いていた。
もう夏の陽射しで、シャボンの泡のような白い雲の形が波皺もたてぬ湖面に映っている。警察の連中の乗ったボートや田舟が、岸に近い浅いところを、錨繩を曳きながらゆるゆると動いていた。十分ほど後、平底船は浮標に赤旗をつけた二つの標識の間でとまった。
「ここです」
隆は挑みかかるような調子でいうと、空気ボンべのバルブを調節して、足にゴムの鰭をつけた。そのあたりは、水の色が青々として、いかにも深そうな見かけをしているが、それは側壁に繁茂し
前へ
次へ
全106ページ中61ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング