クチを打っていたそうで……そういう因縁のある家なんです。大池さんがお買いになったのは、戦後のことですが、妙な噂があって思いが悪いので、私なども、極力、反対したのですが、大池さんも、とうとう、こんなことになってしまって……」
そういうと、湖心の最深部の輪廓をしめす、赤旗の標識を指さした。
「あの旗の立っているところが湖水のいちばん深いところです……明日、ご子息さまが潜水具をつけて潜られるそうですが、湖盆の深所の中ほどのところに、大きな吸込孔があるので、とても、いけまいと思います」
「つまり、死体が揚らないだろうということなのね」
石倉は重々しく首を振った。
「アクア・ラングなんかじゃ、仕様がない。本式の潜水夫を入れないことには、どうにもならないというこってす」
久美子はさり気なくたずねてみた。
「吸込孔って、どんなぐあいになっているものなの?」
「湖盆の深所まで五十メートル……そこから孔になって更に百メートル……その先、どれほど深いか測ったことがありません」
捜査主任は、湖底平原の吸込孔は、陥没湖の可容性地層が溶けてできるものだから、この湖に吸込孔はあり得ないといった。言われてみ
前へ
次へ
全106ページ中58ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング