けた。
「災難ね……あきらめて、死体が一日も早く揚るように祈ることにしましょう。キャンプ村のバンガローへ移りたいんだけど、いいでしょうか」
「バンガロー……いいだろう」
「あたしはK・Uじゃないから、頼まれたって後追い心中なんかしません。その点、ご心配なく」
捜査主任はアルミの弁当箱をハトロン紙で包みながら、
「腹をたてているようだが、それは君が悪いからだよ」
と宥めるような調子でいった。
「偽名をつかったり、絵描きでもないのに絵描きだといったり、怪しまれるのは当然だ……君は東洋放送の宇野久美子というひとだろう」
「お調べになったのね」
「それはもう、どうしたって」
「あたしがK・Uでないことは、おわかりになったわけね」
「言ってみたまえ」
「お調べになったことでしょうから、ごぞんじのはずだけど、一月から四月の末まで、どの放送にも出ていました……最近のひと月は、病気でアパートにひき籠っていたし……」
「それで?」
「大池は今年のはじめごろから、K・Uという女性と二人で、日本中を逃げまわっていたということですが、すると、あたしはK・Uであるわけはないでしょう? そんな暇はなかったから
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