のある男と、妙にとりすました、見るからに秀才型の三十二、三歳の男が、ゆっくりと出てきた。
 口髯のあるほうが車のそばで足をとめて巻煙草に火をつけると、それが合図ででもあるように、私服と警官が分れ分れになり、一人はガレージの横手についてロッジの裏へ、一人は林の中の道を湖畔のほうへ走って行った。
 一人だけ残った年配の刑事は、ロッジの二階の窓を見あげていたが、秀才型のそばへ行って、なにかささやいた。
 秀才型は聞くでもなく聞かぬでもなく、曖昧な表情で、煙草の煙を吹きあげていたが、クルリと向きをかえると、巻煙草を唇の端にぶらさげたまま、のろのろと玄関のほうへ歩いて来た。
「おお、いやだ」
 警察の連中がロッジへ入って来るのを見るなり、久美子は突然羞恥の念に襲われ、濡れものを掛け並べた椅子のほうへ走って行った。

 スラックスもジャンパーも、火気のあたらない裏側がまだじっとりと湿っていてどうしようもないが、パンティやブラジャーのような、みっともないものだけでもどこかへ隠したいと思ってうろたえたわけだったが、作業が完了しないうちに、三人の官憲はロッジに入ってきて、ドアのそばに立って久美子のするこ
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